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一文字違いの獅子 ◆b8v2QbKrCM 「くく、く……」 路地裏に微かな音が響いている。 林立する中小規模のビルによって構成される、蜘蛛の巣のような細い路地。 街の住人――そんなものがいたとすればだが――でも存在すら知らないであろう、異界じみた空間。 奇怪な物音の発生源は、異界の最奥、三方を壁に囲まれた行き止まりだった。 表通りからは完全に死角となっていて、月明かりすらろくに差し込んでこない。 切り立ったビルの外壁は、密林に立ち並ぶ巨木のよう。 視界を遮り、光を遮り、風を遮る。 正常な循環を停止した空気は黴と埃の臭いに汚染され、呼吸すらも苦痛にさせる。 「あはは……」 だが、そんな吹き溜まりの中で、ソレは一人笑い続けていた。 まず目に付くのは、黒と赤。そして金色。 細い身体の輪郭を踝まで包んでいる、皮製の黒いスカート。 同様に厚い皮で繕われた、上半身を覆う鮮血色のジャンパー。 デタラメに切り揃えられた、肩口まで伸びた金髪。 極めて女性的なシルエットであったが、しかしソレは女性ではなかった。 「なんだ、良かった。両儀も幹也もいるじゃないか」 白純里緒という名の青年は笑うのを止めて呟いた。 大勢の名前が書かれた名簿を片手に、赤い瞳でただ二つの名前だけを凝視しながら。 両儀式。 黒桐幹也。 獰猛な笑みを湛えたまま、白純里緒は手にしていた名簿を握り潰した。 あの二人の存在さえ確認できたのなら、もう充分だった。 彼にとってはそれ以外の情報など意味がない。 他の名前など初めから見るつもりもなかったし、見たところで知らない名ばかりだろう。 「俺だけが飛ばされたんじゃないか、なんて杞憂だったな。 それにここなら、流石の両儀も一線を越えてくれるだろ」 白純里緒は足元に放置していたデイパックを無造作に拾い、空を仰いだ。 ビルディングという密林によって、空は狭く区切られている。 だがここが密林だというのなら、そこに猛獣が潜むのもまた道理。 にやりとケモノの口元が歪む。 次の瞬間、路地裏から白純里緒の姿が掻き消えた。 路上に堆積した塵芥が舞い上がり、灰色の煙が真上へと棚引いていく。 白純里緒の取った行為は極めて単純明快だった。 路地裏を囲む壁に向けて跳躍し、デイパックを持つ片腕を除いた四肢を用いて、更に跳躍を繰り返す。 豹のように跳び上がり、蜘蛛のように壁を掴む。 完全に人間を逸脱した身体能力を以って、白純里緒はビルの屋上へと容易く上り詰めていった。 「まずは両儀と幹也を探さないとな。後は……いつもどおりだ」 がしゃん、と屋上の鉄柵を蹴り、白純里緒は登攀を停止した。 いつもどおり――殺したくなれば殺し、食らいたくなれば食らう。 普通の人間にしてみれば、殺人を強要されるこの状況は異常でしかないだろう。 しかし彼にとっては日常的に行ってきたことでしかない。 異常者が異常を行うのは当たり前のこと。 常人が日常を過ごすように、彼は異常を過ごしてきたのだ。 "食べる"という起源に目覚めた彼が、他者を殺し食らうことに何の疑問があるというのか。 起源―― それは、輪廻転生を逆巻きに辿り続けた先にある、始まりの『方向性』である。 世界の始まり、万物が生じる瞬間に、稲光のように発生する方向性。 "虚無" "禁忌" "無価値" "静止" "切断" "結合"――そして"食べる" 起源という無数の意味付けに従って物質は象られ、時間の流れと共に流転していく。 あるときは人間に、あるときは植物に、あるときは鉱物に。 例えどんな形になろうとも、予め定められた方向性からは逃れられない。 仮に禁忌を起源に持つモノであれば、如何なる存在に生まれようとも、群れの常識から外れてしまうのだ。 とはいえ、人格の全てを起源が定義するというわけではない。 通常は性格の枝葉末節に影響する程度だ。 例えば"禁忌"を起源に持つある少女は血の繋がった兄に恋をする。 例えば"切断"と"結合"の二つを起源に持つ魔術師は、僅かな狂いも許されない精密機械を修理できない。 しかし己の起源を自覚し、覚醒したモノは違う。 魔術の世界には、前世の人格を憑依させることで前世の能力を行使する術が存在するという。 それと同じように、起源覚醒者は存在の始まりから現在に至るまでに重ねてきた前世を手に入れる。 "食べる"という起源であれば、その前世は悉く捕食者の立場であっただろう。 即ち白純里緒は一人の人間ではなく、複数の獣ともいうべき能力を持つ殺人鬼なのだ。 「そうだな……両儀のために死体は少しくらい残しておこうか。 刺激を受けて早めに誰か殺してくれるかもしれない」 白純里緒の意識は、既にこの地のどこかにいる同類へと向いていた。 殺人を嗜好しながらも、誰を殺すこともしていない両儀式へと。 彼は殺人鬼の仲間が欲しいのだ。 両儀式にも早く人を殺して貰わなければ困る。 金色の鬣を靡かせて、白純里緒というケモノは隣のビルへと飛び移る。 猛獣が木々に身を隠し獲物を探し当てるように、彼は目当ての相手を求めて街を駆けていく。 今、消失していく世界に一匹の殺人鬼が解き放たれた。 【E-4/雑居ビルの屋上/一日目・深夜】 【白純里緒@空の境界】 [状態] 健康 [装備] なし [道具] デイパック、基本支給品(未確認支給品1~3個所持。名簿は破棄) [思考・状況] 1 両儀式と黒桐幹也を探す 2 それ以外は殺したくなったら殺し、多少残して食べる [備考] ※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦 ※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません 投下順に読む 前:裸の出会いにご注意ください 次:伊賀の散歩者 時系列順に読む 前:裸の出会いにご注意ください 次:伊賀の散歩者 白純里緒 次:勝者なき舞台
https://w.atwiki.jp/xgender/pages/16.html
wikipedia トランスジェンダー (Xジェンダーに触れる部分) http //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC トランスジェンダーの中には、「Xジェンダー」である者も存在する。これに当てはまるのは主に、「両性」や「無性」や「中性」の性自認を持つ者である。その様相は多様であり、その中には性自認が入れ替わる者や、心の部分部分で違う性を自認する者等がいる。個人差はあるが、自分の心が男女どちらか判らず混乱を覚えたり、男女どちらかの性である事を強要される環境に対し、拠り所の無さや違和感や苦痛を覚える。ただし「Xジェンダー」のこの様相は、記憶のあるスイッチング(人格変換)を有する非典型例の解離性同一性障害の症状とも酷似しており、入れ替わる異性の心は乖離した人格であった報告例もあるため、一概に性同一性障害であると思いこむのは早計である。 これらXジェンダー者の場合、(性同一性障害当事者は男性女性のどちらかを性自認していると考えられがちで)医療的な性同一性障害の診断基準には適合しないとされる事があるが、実際の診療の場では、性自認が中性や無性等である性同一性障害当事者が存在している。 また、「トランス」という接頭辞が、“世間においての、「男性」「女性」という二元論的性別観を前提に一方の性別から他方の性別への完全な移行”を表すニュアンスをもつことから、例えば「Xジェンダー」の様な独自の性別(性自認)をもつ者や、社会的制度としての性別(ジェンダー)自体を否定する者は、ジェンダーベンダー(gender bender, 性別をねじ曲げる人)、ジェンダーブレンダー(gender blender, 性別を混合する人)、ジェンダークィア(genderqueer, 既存の性別の枠組みにあてはまらない、または流動的な人)と名乗る場合もある。
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/196.html
第二回放送までの死者 時刻 名前 殺害者 死亡作品 死因 朝 朧 朧 083 ハラキリサイクル 忍法・戯言破り/忍法・神落とし 切腹 朝 土御門元春 白純里緒 087 人をくった話―Dig me no grave― 捕食 朝 木下秀吉 紫木一姫 092 行き遭ってしまった 斬殺 朝 櫛枝実乃梨 如月左衛門 104 リアルかくれんぼ 首折 午前 土屋康太 キノ 084 What a Beautiful Hopes 刺殺 午前 吉井明久 キノ 084 What a Beautiful Hopes 射殺 午前 朝比奈みくる キノ 084 What a Beautiful Hopes 斬殺 午前 薬師寺天膳 キノ 084 What a Beautiful Hopes 射殺 午前 白純里緒 ステイル=マグヌス 106 愛憎起源 Certain Desire. 焼滅 昼 零崎人識 キノ 114 人殺しの話――(ひとごろし野放し) 射殺 昼 ガウルン 紫木一姫 124 モザイクカケラ 斬殺 【残り39人】 殺害数 順位 該当者 人数 このキャラに殺された人 生存状況 スタンス 1位 キノ 5人 土屋康太、吉井明久、朝比奈みくる、薬師寺天膳、零崎人識 生存 マーダー 2位 紫木一姫 4人 長門有希、高須竜児、木下秀吉、ガウルン 生存 マーダー(奉仕) 3位 シズ 2人 アリソン・ウィッティングトン・シュルツ、メリッサ・マオ 生存 マーダー 白純里緒 2人 吉田一美、土御門元春 死亡 マーダー 5位 浅上藤乃 1人 甲賀弦之介 生存 マーダー(無差別?) 朝倉涼子 1人 筑摩小四郎 生存 マーダー(奉仕) 師匠 1人 北村祐作 生存 マーダー 伊里野加奈 1人 榎本 生存 マーダー(奉仕) 姫路瑞希 1人 黒桐幹也 生存 対主催 朧 1人 朧 死亡 マーダー(奉仕) 如月左衛門 1人 櫛枝実乃梨 生存 マーダー ステイル=マグヌス 1人 白純里緒 生存 マーダー(奉仕)
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主な用語の一覧 ア カ サ タ ナ ハ マ ヤ ラ ワ A~Z ア アウティング(Outing) アライ(Ally) 異性愛 ⇒ヘテロセクシャル インターセックス(Intersex) 上へ カ カミングアウト(Coming out) クィア(Queer) クェスチョニング(Questioning) クローゼット(Closeted) ゲイ(Gay) 上へ サ ジェンダー(Gender) ジェンダー クィア(Gender queer) シスジェンダー(Cisgender) ジョグジャカルタ原則 性嗜好(Sexual preference) 性自認(Gender identity) 性的指向(Sexual orientation) 性的倒錯(Paraphilia) 性役割(Gender role) 性同一性(Gender identity) 性同一性障害(Gender Identity Disorder) 『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)』 『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』 性分化疾患(Disorders of sex development) 性別違和(Gender dysphoria) 性別不一致(Gender incongruence) セクシャリティ(Sexuality) セクシャルマイノリティ(Sexual minority) 全性(Pangender) 上へ タ 中性(neutral) 同性愛 ⇒ホモセクシャル トランスヴェスタイト(Transvestite) トランスジェンダー(Transgender) トランスセクシャル(Transsexual) 上へ ナ ノンセクシャル(Non-sexual) ノンバイナリージェンダー(Nonbinary gender) 上へ ハ バイセクシュアル(Bisexual) パンセクシャル(Pansexual) パンジェンダー(Pangender) 不定性(Genderfluid) ヘテロセクシャル(Heterosexual) ホモセクシャル(Homosexual) 上へ マ 無性(Agender) モントリオール宣言 上へ ヤ 上へ ラ 両性(Bigender) 両性愛 ⇒バイセクシャル レズビアン(Lesbian) 恋愛的指向(Romantic orientation) 上へ ワ 上へ A~Z Aジェンダー(Agender) Aセクシャル(Asexual) Cisgender ⇒シスジェンダー DSDs ⇒性分化疾患 FtM ⇒トランスジェンダー FtX ⇒トランスジェンダー Gender queer ⇒ジェンダー クイア GID ⇒性同一性障害 Heterosexual ⇒ヘテロセクシャル Homosexual ⇒ホモセクシャル IS ⇒性分化疾患 LGBT MtF ⇒トランスジェンダー MtX ⇒トランスジェンダー Nonbinary gender(ノンバイナリージェンダー) Paraphilia ⇒性的倒錯 Queer ⇒クィア TG ⇒トランスジェンダー TS ⇒トランスセクシャル TV ⇒トランスヴェスタイト Xジェンダー XtX ⇒トランスジェンダー (記事作成 2017/01/14) 上へ 関連 分野 一覧 参考リンク Wikipedia 他のWiki 他 上へ LGBTやセクシャルマイノリティの用語への理解を手助けするためのサイト (C)LGBT・セクシャルマイノリティ用語集Wiki since 2017
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訪問者数 - 総合メニュー トップページ 目次 駄文 私の過去の思考を物語るうえで、重要な3本の記事と、復刻版を作るにあたっての「序文」からなります。 それぞれの記事は、以下のとおりです。 ただし、これら序文以外は過去の考えに基づいて書いており、掲載にあたっても原則として手を加えていません。その点、ご了承ください。 序文 拝啓、大島教授 ―皆殺しの法学者 性同一性障害―その治療の方向性 子ありGID に対する私の考え 未整理資料(閲覧制限あり) 掲示板(要パスワード) 「銀」が制作したブログなどへのリンク 性同一性障害に関するいくつかの考察 銀のセカイ ブログでアンニューイ(仮称) その他リンク みずほのブログ おかまの品格 Anno Job Log 性同一性障害の夫と妻子 GID学会 Dr 林のこころと脳の相談室 ここを編集
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時間 死亡者名 殺害者名 死亡話 死因 凶器 場所 深夜 コルネリウス・アルバ 松雪集 002 愛する貴方へ花束を 斬殺 式の古刀 a-6 汐宮栞 白純里緒 005 俯瞰せよ、人々よ 撲殺 拳 d-6 セシリア・オルコット 木原数多 010 世界最悪(きはらあまた)2 射殺 アサルトライフル d-4 アサシン 木原数多 射殺 アサルトライフル d-4 久川鉄道 秋山澪 015 幸せの背景は不幸 射殺 天井の銃 c-4 篠ノ之箒 一方通行 016 底より深い底 虐殺 足 d-2 美樹さやか 岡崎朋也 020 理想の果てに 射殺 拳銃? d-6 椎名まゆり 音無結弦 023 未来へ駆ける 射殺 指弾 ? 浜面仕上 ランサー 025 時系列さえもっと遅ければ…いや、言うまい。 貫殺 ゲイ・ボルグ e-2 白純里緒 上條恭介 026 残酷歌劇 刺殺 カリバーン d-4 上條恭介 白純里緒 刺殺 ドス刀 エリュシア・デ・ルート・イーマ 木原数多 射殺 アサルトライフル 古河渚 阿万音鈴羽 029 蹂躙する宝剣 射殺 小銃 f-2 阿万音鈴羽 神裂火織 貫殺 日本刀 神裂火織 ギルガメッシュ 刺殺 剣 本間芽衣子 ギルガメッシュ 射殺 小銃 田井中律 ギルガメッシュ 貫殺 剣 織斑一夏 音無結弦 032 主人公たちの三つ巴 射殺 指弾 e-6 以上18名 残り22人 おまけ 名前 最後の言葉 コルネリウス・アルバ 「き、さま。貴様ァァああああああああああああああああああああああッ!!」 汐宮栞 「ブッ!…@#E$% *%$#…」 セシリア・オルコット 「目を閉じて!スタングレネードですわ!」 アサシン 「木原ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 久川鉄道 「(じんたん、ゆきあつ。めんまの奴を頼むぜ。お前等が喧嘩ばっかりしてちゃあ、つるこやあなるだって悲しむだろうが。心配すんなよ、俺はいつまでも、『ぽっぽ』だからな)」 篠ノ之箒 「ひゃ…ひゃい…ありがとう…ございましゅぅ…こんなに汚い、私に、早く、ひゃやくぅぅうううう………げぎゃあああああああああっ!あ、あ、ひゃっと、わたひ、解放しゃれ、るのだな、ギビィッ」 美樹さやか ーーーあたしって、ほんとバカーーー 椎名まゆり 浜面仕上 ーーー見たこともないのに。不思議と俺はそいつらを知ってる気がしたんだ。 白純里緒 「……、ひゃはははは」 上條恭介 「(僕は、ーーーーー)」 エリュシア・デ・ルート・イーマ 「………もう嫌だよ…神様ぁ…」 古河渚 「ーーーーーぇ」 阿万音鈴羽 「(せめて、もう一度父さんに会いたかったなあ)」 神裂火織 「逃げなさい、めんま!」 本間芽衣子 「ーーーーーだいすき」 田井中律 「ごめんな、澪」 織斑一夏 殺害数ランキング 順位 殺害者 殺害人数 被害者 スタンス 生死 1位 木原数多 3人 セシリア・オルコット、アサシン、エリュシア・デ・ルート・イーマ マーダー(無差別) ○ ギルガメッシュ 神裂火織、本間芽衣子、田井中律 マーダー(無差別) ○ 3位 白純里緒 2人 汐宮栞、上條恭介 マーダー(無差別) ● 音無結弦 椎名まゆり、織斑一夏 マーダー(ジョーカー) ○ 5位 松雪集 1人 コルネリウス・アルバ 優勝狙い ○ 秋山澪 久川鉄道 混乱 ○ 一方通行 篠ノ之箒 対主催 ○ 岡崎朋也 美樹さやか 奉仕(渚) ○ ランサー 浜面仕上 主従(ほむら) ○ 上條恭介 白純里緒 対主催 ● 阿万音鈴羽 古河渚 優勝狙い ● 神裂火織 阿万音鈴羽 対主催 ●
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那月というキャラクター自身に関するもの 楽器・音楽に関するもの 多重人格に関するもの Wikipedia 解離性同一性障害 解離性同一性障害の彼女と僕
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勝者なき舞台 ◆EA1tgeYbP. コンクリートの密林を一体のケモノが飛び回る。 林立するビルからビルへと飛び移るケモノの名前は白純里緒という。 右に、左に縦横無尽に飛び回り、彼が今行っているのは彼の縄張り、自らが目覚めた場所の地形の把握である。 確かに彼が今、最も優先するべき目的はただ一つ。 両儀式。 黒桐幹也。 この両者の探索である。 ――特別であるが故に外れてしまった存在である自分。だが、自分しかいないということは、特別性の証明であるのと同時に――孤独だ。 だから、彼は二人を求める。 世間から外れた殺人鬼である自分と同じ、いやそれ以上の殺人鬼である少女、両儀式。 外れたはずの自分さえ受け入れてくれる青年、黒桐幹也。 彼にはこのどちらかが必要だった。さもなければきっと、一人きりの異常者(しらずみりお)を自分自身が受け入れられない。 だが黒桐幹也はともかく、両儀式とは出会う前に下準備が必要だった。 両儀式はある意味、彼などよりもはるかに優れた人殺しだ。そんな彼女の前にのこのこと姿を見せるのは、あまりにも危険だ。 ……ならば、どうするべきか。 その答えこそ、今彼のおこなっている行為、地形の把握だ。 この密林の街を知り尽くし、彼の庭と変えたなら――これから先はそこに潜み姿を隠すのも、そこに迷い込んだ獲物を探し出し、狩るのも彼の思いのままだ。 「……ん?」 そして、しばしの時が過ぎ。 手当たり次第に壁を伝い、地を駆けていた彼の動きがふと、止まる。 一般人であっても何とか聞き取れるであろう「声」を、ケモノの鋭敏な感覚を備える彼の聴覚がうるさいほどに感じ取ったのだ。 『……達のような愚か者は先の言葉全ては覚えきれないか。簡潔に伝えてやろう。 優勝したいと願うような愚か者はエリアD-4ホールへ来て己が愚劣さをあの世で後悔せよ!』 ……北のほうから聞こえてきたその声に白純里緒は笑みを浮かべる。 どうやらここに殺人鬼がいるということも知らずに、誰彼構わず戦いを挑む、そんな大馬鹿がすぐ北のエリアにいるらしい。 「ははは! 良いじゃないか」 ちょうどいい、一人目の獲物にはふさわしい馬鹿だ。貴様の望みどおり、自分が生き残ると考えている殺人鬼が貴様の元に行ってやろう。 彼は一路北へと向かう。 ……が程なくして、彼の動きは再び止まる。 とあるビルの屋上から見下ろすその下に、最も会いたいと願っていた相手の一人。黒桐幹也の姿を眼下に収め。 ◇ ◇ ◇ 「はぁ……はぁ」 一歩走るそのたびに、両足の膝の裏がじくりと痛む。 そこは少し前に僕がちょっとした事件に巻き込まれた際に大怪我をしたところだ。ふだんはそれほど痛みはないけれど、今のように走ったり、激しく動かしたりすると痛んだりする。 ……けれど困ったことに、今はそんな泣き言が言える状況ではなかったりする。 「はぁ……大……丈夫?」 苦しいのを我慢して後ろを振り向き、僕の少し後を一人の少女がついてきているのを確認する。 僕の少し後ろを走る少女、吉田さんは少し苦しそうな表情でかなり息を切らしながらも、こくんと確かに頷く。 ――そろそろ休まないとダメかな。 そんな彼女を見ながら僕はそう判断を下した。きっと彼女はまだ走れるとか言うかもしれないが、いくら走れても、それ以外の余力がなくなるのは問題だ。 少し前方にある細い通路、少しずつ走る速さを落としながらそこに入ると僕はそこで立ち止る。はあ、と一度大きく息をつくと、今更のように額からじっとりとした汗が浮き出してきた。 「……えっと……はぁ、ここで……大……丈夫なんでしょうか」 少し遅れて通路に入ってきた吉田さんの問いかけに、僕は正直にわからないと答える。 そもそも今までの逃走自体、意味があるものかどうかはわからないのだ。 ――いきなり僕達がこんな全力疾走をやらされる羽目になったのは、とりあえず僕のことを信用してくれたらしい吉田さんとお互いの探し人を求めて、それまでいた場所から出た少し後、さっき出てきたばかりのホールから行われた「宣言」のせいだった。 その宣言の内容をまとめると 「自分はいまD-4にあるホールにいるから、殺し合いに乗った参加者はここに来い。そうじゃない脱出を願う参加者は、彼の大事な人が他の参加者に殺されてしまう前になんとしても脱出する方法を見つけ出せ」 ということになる。 ……彼の発言内容からすると、そこまで危険な人物ではなかったかもしれないし、大事な人のために自分のいるところへ積極的に他者を害そうとする危険人物を集めようとする気持ちには、正直一部共感できるところもある。 でも、僕らのいた場所でそんな物騒な発言をしたことに関しては文句を言いたい。 マイクか何かを使ったあの宣言がどこまで聞こえたかはわからないけど、最低でも周囲にある八エリアには聞こえたことだろう。そして、確か参加者が全部で六十人いてエリアが全部で三十六。 ――つまり、数字の上での計算だと最低でも七人から八人、全部海のエリアがあったり、端の方より真ん中のほうに多く人が集められていると仮定すると、それ以上の参加者があの宣言を聞いたことになる。 あの宣言を聞いた参加者全員が僕らのように他人を傷つけたくはないと思ってくれていればいいけど、それは正直言って高望みもいいところだろう。 だからとりあえず、開けた場所が多い西のほうよりも姿を隠せそうなビルが立ち並ぶ南へと向かい、ビルの影で休んでいるというのが今の状況。 このままここでもう少し息を整えて、それからビルの影を縫うように隣のエリアに移動。 少なくともあの宣言を聞いた戦闘を好まない参加者達がきっと同じように下した決断だと信じて、ホールの周囲のエリアから離脱する。 そんな僕の考えはものの数分で瓦解した。 かつかつ 不意に聞こえてきた人の足音に僕と吉田さんは緊張する。 足音の主は真っ直ぐに僕らのいるビルの近くまで向かってくると、不意に立ち止る。 「…………」 「…………」 待つことしばし。すぐ近くにいる誰かはまるで動く気配を見せないけれど、いつまでもこうして「誰か」が立ち去ってくれるのを待っていられない。僕は小さく息を吐くと吉田さんに隠れているように無言で指図し、ビル影からできるだけこっそりと辺りの様子をうかがった。 「――――」 そこにいた人影を見つけたとき、驚きのあまり一瞬息もできなかった。 そこにいた「彼」は、まるで式そのものだった。 女物のスカートと、赤い皮製のジャンパー。肩口で切りそろえたバラバラの髪と、中性的な顔立ち。 ただ髪は金色で、瞳はカラーコンタクトでも入れているのか兎みたいに真っ赤だった。 いつからこちらに気がついていたのか、彼は僕が覗き込んだ途端にこちらと視線を合わせてやあ、と気軽な調子で声をかけると近付いてきた。 「久しぶり、三年ぶりかな黒桐君」 「えと、お知り会いなんですか?」 「……吉田さん」 彼の敵意のなさそうな様子に緊張がほぐれたらしく、顔を出してきた吉田さんに僕は声をかけるのと同時に、デイパックを彼女へと差し出す。 「吉田さん、今すぐにこれをもって逃げるんだ。あの人が南のほうから来たから多分、そっちのエリアは今のところ危険は少ないと思う」 「……え? 黒桐さん!?」 驚いた吉田さんがバッグを受け取るのも待たずに地面に落とすと、唯一バッグから抜き取った道具、あの不必要に大きい刀をさやに収めたまま不恰好ながらも構え、彼の目から吉田さんの姿を隠すように立った。 そんな僕を見た彼は残念そうに肩をすくめる。 「…………その様子じゃ、色々わかっているみたいだね。ふむ、しかし僕は何かヘマでもしたかな? 君と最後に話したファミレス以来、痕跡は全て絶っていた筈なんだけど」 彼の問いかけに僕はそうですね、と頷いた。 「……貴方にミスはなかったと思います。ただ、ヒントはありました。十一月にあるマンションが取り壊されたことは知っているでしょう? その直前にマンションの住人を調べる機会があったんです。 そのとき、貴方の苗字を見つけました。僕はそれがずっと気になっていた。だってあのマンションは普通じゃなかった。あそこに居た以上、貴方は何らかの形で式に関わっていることになるんです」 金色の髪をかきあげて、先輩――白純里緒は、ああ、と頷いた。 「なるほど、マンションの名簿とはね。荒耶さんもつまらない小細工をしてくれたものだ」 そう言うと先輩は困ったふうに笑った。 その雰囲気は、僕の知る昔の先輩とかわっていない。 「……先輩、貴方は」 ……この人は本当は変わっていないんじゃあ? そんなわずかな期待を込めて、僕は彼に殺し合いに乗る気はないのか尋ねようとする。 そんな僕を見て、先輩は寂しそうに笑う。 「……本当は近い将来、キミに再会することを僕は予想していたんだ。だからそのときに備えて、いろいろと準備をしてきたんだけど……全部無駄になってしまった。まあいいさ。そうだね、ついでだから後ろにいる彼女も聞いていくといい、たわいもない昔話なんだけどね」 ――そして白純里緒は僕と、動くタイミングを逸していた吉田さんへと告白をはじめた。 ……それは四年前に起こった事故のような殺人事件の話であり ……それは彼が黒い魔術師と出会い、人間を捨てた物語であり ――そして、それ以降重ねられ続けてきた彼の罪と、その原因、彼の起源の物語だった。 最初は物静かに語っていた彼の様子は、話が進むにつれて、息は荒くなり、肩は震え始め、内側からこみ上げてくる激しい感情を無理矢理に押さえつけるものへと変化していく。 「……先輩」 その様子があまりにも痛々しく、辛そうだったから僕は思わず彼へと近付いた。 その途端、だん、と強い力で僕は壁へと押さえつけられて、あっさりと手にしていた刀を取り落とした。 「黒桐さん!」 「……い、いいから行って」 僕は先輩に壁に押さえつけられた姿勢のままで、もう一度吉田さんに逃げるように指示を出す。 それでもまだ彼女は逃げるのを渋っていたけど、僕を押さえつけたまま小さく震えつづける先輩をみて、僕の再度の促しにようやく逃げ出してくれた。 「……あ、その……無事でいてください」 最後にそう言い残した彼女の姿は、すぐに路地裏を曲がって見えなくなる。 白純里緒はそんな彼女には目をくれることもなく、うつむいたまま震えている。僕を押さえつける力はとても強いままだったけれど、僕にはそれが恐ろしいものだとは思えなかった。 その力の大きさは彼が抱える絶望の大きさだ。……僕にはそれを振りほどくことはできなかった。 「――助けてくれ、幹也」 聞こえないぐらいの小声で先輩が呟く。僕はそれにも答えられなかった。 ……一体どのくらいそうしていたのだろう。 長いのか短いのかよくわからない時間が過ぎ去ったその後、不意に彼は力を緩めると後ろ向きに大きく下がり、大通りまで後退した。 「――けほっ、……せ、先輩?」 「ごめん…………黒桐君。ずいぶん無駄な時間を使わせてしまったね。キミはもう行くといい。……そして二度と僕の前に現れないでくれ。次に会う時は僕は君を殺すことになるかもしれない」 「そんな!」 「もう無理なんだよ、黒桐君。ここには荒耶さんも蒼崎橙子もいない。いや、仮にいたとしてもきっと俺は手遅れさ。だったら……行ける所まで行ってやるさ」 そう言い捨てると、彼はオリンピックの金メダリストのような凄い速さで道を北のほうへと走り去っていった。 後に残された僕は自分の無力さを嫌というほどにかみ締めていた。 ……それでもやらなくちゃいけないことはいくらでも残っている。僕はのろのろと落ちていた刀を拾うと、路地裏を歩き出す。 また一人増えてしまった探し人。まず間違いなく一番近くにいる、さっき別れた少女の姿を探して僕は歩き出した。 ◇ ◇ ◇ それほどの距離も稼がずに立ち止まると、白純里緒は慎重に周囲の物音を探った。 こちらのほうへと向かう足音は一切ない。 「そう、それが正解だぜ、幹也」 先ほどまで見せていた気弱な表情はどこへやら、白純里緒は一転してにやりとした笑みを浮かべる。 ――起源に覚醒したものは確かに自己の人格を失ってしまう。だが、その人格が二重人格のように分かたれてしまうことはない。 「人殺しを好まない白純里緒」という人格が残っていたのであれば、彼は起源という衝動には負けずに、人を殺してしまうということもなかった。 ……彼がつい先ほど告白した四年間の罪とは、起源など関係がない、紛れもない白純里緒が自らの意思で他者を殺し、食べてきたという証明に他ならない。 ならば何故、彼は先ほどのようなつまらない演技をしたのであろうか。 その理由は簡単だ。 白純里緒は黒桐幹也に対しては、同じ外れた殺人鬼である両儀式に対する場合とは異なり、自分を受け入れてくれる仲間としての役割を求めている。 そのためにも平気で他者を傷つける自分のような存在になってもらっては困るし、あっさりと他の誰かに殺されてしまっても困る。 のこのこと自分から危険に向かって突き進むようでは、たった一つの生き残りをかけたこの舞台、命が幾つあっても足りない。 だからこその演技、不安定な面を見せる危険かもしれない人物を演じてみせたというわけだ。 危ないことからは逃げ出す。黒桐のような一般人にこれ以上の護身策などありはしない。 「……でも、あいつは邪魔だな」 当面危険からは逃げるという判断をするであろう黒桐幹也。ただ、その彼も先ほどのように自分よりも弱い人間を逃がすため、囮となって自分から危険へと立ち向かうかもしれない。 ――そんなこと許せるはずもない。 白純里緒は手近なビルの屋上へと一気に駆け上がる。その運動能力は先ほど黒桐幹也の前で見せていたそれとは比較にならない。 駆け上がった屋上から周囲を見渡し、動く影を追う。見渡す限り動いている影は一つ。もう一つあるはずの影は今の彼のいるところからは見える位置にはいなかった。だが、そんなことは些細なこと。 このコンクリートの森の中、例え黒桐幹也でさえも、モノを見つける速度は自分に劣る。彼は音もなくビルからビルへと飛び回り、一人の少女の姿を追い求め始める。 ――そしてほどなく、先の路地からはやや離れたビルのビルの一室、そこに隠れる少女の姿を白純里緒は見つけ出す。 移動した距離と時間を考慮すれば上手く隠れた、と吉田一美は誉められるべきであろう。少なくとも下から見上げて探す限りではほぼ死角となるように、そして彼女の位置からは多少は外が見えるような位置取り。 だが、それも上から探す白純里緒にとっては意味のないこと。 ……そしてケモノは迷うことなく、その部屋へと音もなく飛び込んだ。 「声は出すな」 「……!」 進入するや否や、彼は吉田一美の口を押さえ、そのまま壁へと押さえつける。 思考が現状に追いついていないのか、呆然とした目でこちらを見つめる吉田一美を見て、白純里緒の心にふと、悪戯心がわいた。 ……どの道、この女を殺すことは確定の上、すぐにでも殺すことは可能だ。だったら、わずかな時間とはいえ、黒桐幹也を危険な目に遭わせたかもしれないこの少女には罰を受けてもらうとしよう。 八つ当たりとしかいえない身勝手な感情と共に、白純里緒は吉田一美に対して嘲るような笑顔を見せる。 「久しぶり、とでも言えばいいかな? ん、ああそうか。ぼくがここにいるということは黒桐君に何かあったんじゃないのかと心配しているのかい? くっ、ははははははっ、ははははははっ。いや、本当キミはおめでたいねえ。少し考えればわかるだろ? 僕がこんなにも早くここに、キミがいるところに来れたのはちゃんとした理由があるってことぐらいはさあ」 「…………」 「ああ、そうさ。君は幹也に売られたのさ。君がいなくなったすぐあとに幹也が僕に言ったのさ。君と君に渡したにもつは全部差し出すからどうか、僕の命は助けてくださいってね。 何? 幹也がキミなんかのために命がけで僕をくい止めてくれたとか思っちゃったの? 見ず知らずの存在だったキミを助けるために命をかける馬鹿なんていないさ。何をいい気になってるんだか。本当自意識過剰もいいところだよ、あははははっ」 そうして白純里緒は返答できない吉田一美を一方的に嘲笑う。 この虚言には何の意味もない。ただ、白純里緒は吉田一美を許せなかったのだ。 ――たとえこれから死に逝く相手だとしても、彼女の記憶に黒桐幹也が彼女のことを守ったという事実が残ることさえ許せないというだけ。嫉妬を晴らす、ただそのためだけに彼は彼女の心を踏みにじる。 「はははははっ! あー、笑った笑った。さて、ここまで笑わせてくれたお礼だ。死ぬ前に他の知り合いに伝えたいメッセージがあるって言うなら聞いてやるぜ。ああ、あとはもちろん幹也の奴への恨み言でも構わないけどな。とはいえ、幹也の奴を殺してくれとかそういうのは無理だぜ」 そして最後に彼は告げる。あえて幹也への敵愾心をあおる言葉を言うことで、最期に彼女がどのような恨み言を残していくのか、それを想像してこっそりと白純里緒は笑みを浮かべる。 もちろん、彼女の死に際の言葉は一字一句残さず幹也へと伝えてやる。彼の懐には支給品のひとつ、ボイスレコーダーがある。 きっと幹也はもう少し後になって、この場所をを突き止めてやってくる。そして彼は発見するのだ。すでに事切れた吉田一美と、その死体の傍らに転がるボイスレコーダーを。そして自らに向けられた少女の理不尽な悪意を知ることになることになるのだ。 そのときの彼の様子は想像するだけで身震いするほど素晴らしいものとなるだろう。 「――――」 「……え?」 そんな想像に集中しすぎたせいか、白純里緒は最初少女が何といったのか聞き漏らした。 「…………シャナちゃん、坂井君、……黒桐さん。生きて、絶対に死なないで。それと、ありがとう」 「…………は?」 それだけを少し震える声で言うと吉田一美は言うべきことは全て語ったというかのごとく口を閉ざした。 だが、それで収まらないのは里緒のほうだ。 「おかしいだろ! 何で、何でお前を裏切った黒桐への恨み言が出てこないんだ!?」 「――恨んでなんていませんから。裏切ってもいない人を恨むなんてできません」 だん、と壁に押さえつけて問い詰める白純里緒に、少女は痛みに顔をしかめながらも静かに答える。 「おかしい、おかしいってば! ついさっきであったばかりの他人なんだぞ! 何でそんなに簡単に信じられるんだ! 普通は……!」 「信じたんです、だから」 彼女の返答が白純里緒を激昂させる。 「黙れ……! お前なんかに黒桐のことがわかるわけがないだろう! 訂正しろ、謝れ、何でもいいから恨み言の一つでも言って見せろよ!」 「……っ!」 白純里緒の叫びに吉田一美は答えない。いや、もう答える事ができなかった。白純里緒に激情のまま振り回される彼女は、何とか自分の意識を保つことで精一杯だったのだ。しかしそんな状況にも関わらず、彼女の心は奇妙なまでの落ち着きと安心感があった。……あるいはそれは避ける事のできない死を目前とした諦念が生み出した物であったのかもしれない。 (……やっぱり、嘘だった) 目の前の彼の激昂ぶり振りを見ればもう、疑いようはない。出会ったばかりの彼のことを信じぬく以上のことしかできなかったとはいえ、信じ抜いたのはやっぱり間違いなんかじゃなかったのだ。そんなことがただただ、嬉しいことと思える。 「聞こえないのか! 黙ってないで何とか言え! 言えよオオおおおおおっ!」 激怒した白純里緒が爪を振りかざすのを彼女はただ見つめる。 (――悠二君、死なないで) 「え?」 首から血を流し、倒れたまま動かない吉田一美を白純里緒は呆然と見下ろした。 「なんだよ、それ。ふざけるな! あそこまで好き勝手に言ったくせに何でこんなにあっさり……!」 だが、ピクリとも動かない目の前の少女は誰がどう見たところで死んでいる。 ……たっ 少し先のほうから響いた足音に、せめてもの腹いせに少女の遺体を無残に喰い散らかそうとした白純里緒の動きが止まる。 足音は少しずつ、だが確実にこのビルへと近付いてきている。そして今、ここに近付いてくるであろう人物は一人しかいない。 「……くそっ」 今はまだ、幹也には自分が喜んで人を殺しまわっていることを知られるわけには行かない。 そうしてケモノはビルの影へと身を躍らせる。 (幹也、きちんと生き延びろよ?) せっかく見つけた黒桐幹也。しかし今はまだ、彼を自分のそばに置くことはできない。 なぜなら特別な自分のそばに在る人間は、やはり特別な人間であるべきなのだから。 故に本来ならばそのための道具、特別な大麻を彼の血で栽培した特製品、ブラッドチップを白純里緒は用意して、使うつもりでいた。 だが自分がここへ連れて来られたといって、アレまで絶対にここにあるという前提で動くのは少々危険だ。……しかし、心配することはない。 ――確か荒耶は言っていた。起源覚醒には双方の同意が必要であると。 だから……黒桐の心の底からの同意さえ得られれば、他の劇物と白純里緒の血液を混ぜ合わしたものや、あるいは白純里緒の血だけでも黒桐の起源は呼び起こせるかもしれない。 もちろん、そんな方法は他の奴で実験してからになるだろうし、それ以前にブラッドチップが見つかれば何の問題もない。 だから今は一人でも多く殺そう、食べよう。 今度こそ彼は北へと向かう。まずは身の程知らずの愚か者をこの爪と牙で引き裂くために。 【E-4/雑居ビルのある一角/一日目・黎明】 【白純里緒@空の境界】 [状態] 健康 、強い苛立ち [装備] なし [道具] デイパック、基本支給品(未確認支給品0~2個所持。名簿は破棄) [思考・状況] 1 両儀式を探す 2 黒桐を特別な存在にする 3 そのためにブラッドチップを探す 4 見つからないようなら、思いついた他の起源覚醒の方法を適当な奴で試す 5 まずは拡声器で呼びかけを行った馬鹿を殺しに行く 6 それ以外は殺したくなったら殺し、多少残して食べる [備考] ※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦 ※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません ※全身に返り血が付着しています ※ブラッドチップ@空の境界 荒耶宗蓮特製の大麻を白純里緒の血液で栽培した強力な麻薬。本編中では自分の意思で人間を捨てる覚悟と共にこれを摂取すれば起源覚醒者に変えることができると白純里緒は思っていたが、黒桐幹也はこれを拒否したためにその真偽は不明。 「……今の声は」 近くのビルから聞こえてきた聞き覚えのある声に、僕は言い知れぬ不安を感じた。 そんなわけはない。確かに先輩は人を殺す側に立っているのかもしれない。けど、あの人は確かに北に向かって走っていったはずなんだ。 必死になって自分にそう言い聞かせながら、僕は吉田さんの痕跡を追ってたどり着いたビルの前で立ち止まった。 「……吉田さん?」 小声で呼びかけるも返答はない。 ここにはいないのかもしれない、そんな気持ちとは裏腹に僕の足は吸い込まれるようにビルの内部へと向かう。 「吉田さん、返事をしてくれるかい?」 階段を上る僕はいつか感じたことのある匂いを感じ取っていた。 ――鉄っぽい、むせ返るような匂い。 知らず、動悸が激しくなる。 吉田さんの返事はない。 「ここにはいないの?」 うっすらと埃が積もったビルの中、小さな足跡はその一室へと消えている。……出た痕はどこにもない。 「……吉田さん」 部屋の扉を開け、中に入ったその途端一瞬気が遠くなる。 首からの流血。部屋を真っ赤に染めるぐらい血を失った彼女はどう見ても生きてはいない。 不意に胃の中に、塊のような異物感を感じた。 口の中いっぱいに、みるみるうちに嫌な味がする唾液が広がっていく。 「……!」 胃がすくみ上がるように動き、内にこもる物を一気に押し上げようとする。 喉元まで上がってくる嘔吐感。 ……それでも、いつかのようにもどさずには済んだのはきっと彼女を汚しちゃいけないという……意地と罪悪感のせいだと思う。 「う……!」 ごろりと動く胃を僕は何とかなだめる。 「……ごめん、吉田さん」 君を探し人と再会させてあげられなくて。 きみのそばにいてあげられなくて。 君を守ってあげられなくて。 荒い息をつきながら、それでも僕は何とかそれだけを搾り出す。 そして血の海となった部屋に入ると、むせ返るような匂いに反応し、再びこみあがってきた吐き気をおさえながら、すぐそばに転がっていた血に染まったデイパックを拾い上げた。 「……ん? これは……」 その時、彼女の影になるように転がっていた何かに気が付く。それは黒い小型のボイスレコーダーだった。 ――あるいはこの中には彼女の遺言が入っているかもしれない。そう思った僕は再生ボタンに指を掛け……。 ―――――― ……ボタンを押すことはできなかった。 たしか彼女の支給品の中にこんな物はなかったのだし、これは間違いなく彼女を殺した…………誰かが残していった物だろう。 この中にはきっと彼女が探していた坂井君やシャナさんへのメッセージが入っている。せめてこのメッセージだけは何があっても、僕は彼らに届けなくちゃいけない。そして彼女を守ることができなかった僕に……彼らよりも先に彼女の最期の思いを聞く資格はない。 ……あるいはこの中には、彼女を守ることができなかった僕の罪を裁く内容も含まれているかもしれない。だとすれば、彼らの前でその罪を曝け出すことも僕の罪滅ぼしだ。 「……吉田さんさよなら、そしてごめん」 僕は、最後に、そう言い残して彼女の眠る部屋を後にした。 【E-4/ある雑居ビルの一室/一日目・黎明】 【黒桐幹也@空の境界】 [状態] 健康 、罪悪感、強い悲しみ、使命感 [装備] なし [道具] デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品(確認済み)1~3個 [思考・状況] 基本:式、鮮花を探す。 1 吉田さんの知り合いを見つけ、謝罪しレコーダーを渡す 2 浅上藤乃は……現状では保留 3 先輩ともう一度話をする [備考] ※吉田一美の殺害犯として白純里緒を疑っています ※白純里緒が積極的に殺し合いに乗っていることに気がついています 【吉田一美@灼眼のシャナ 死亡】 投下順に読む 前:虎と機関銃 次:CHALLENGER 時系列順に読む 前:虎と機関銃 次:ハローグッパイ 前:一文字違いの獅子 白純里緒 次:破と獣と炎の狂想曲 前:どこにでもある、普通の出会い 黒桐幹也 次:ユケムリトラベル 人類五名温泉宿の旅 前:どこにでもある、普通の出会い 吉田一美 死亡